大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)2958号 判決

原告

竹田直樹

被告

芝田酒類販売株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自、原告に対し、金三四万三一八〇円およびこれに対する昭和五二年六月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その一を被告らの負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは連帯して、原告に対し、金七〇万二一二五円およびこれに対する訴状送達の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和五一年五月一一日午後四時三五分頃

2  場所 大阪市平野区長吉長原東三丁目七番一五号先路上

3  加害車 軽四輪貨物自動車(登録番号六六泉あ二四八号)

右運転者 訴外東友蔵

4  被害者 原告(当時四歳)

5  態様 訴外東友蔵は、加害車を運転進行中、前方を横断していた原告に自車を衝突させ、その結果原告に傷害を負わせたもの。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自動車損害賠償保障法三条)

被告芝田喜一は、加害車を保有し、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告芝田酒類販売株式会社(以下被告会社という)は、訴外東友蔵を雇用し、同人が被告会社の業務の執行として加害車を運転中、つぎのような過失により本件事故を発生させた。

即ち、同訴外人は西から東に向け右車両を運転進行していたが、本件事故現場付近路上には自動車が駐車しており、しかも同道路は一五棟に及ぶ鉄筋の市営住宅が建ち並び、飲食店等のある中にあつて、普段から子供の出入、通行の多い場所であるため駐車車両の陰から歩行者の横断することも予想し得えたのであるから、このような場所に差しかかつた場合自動車運転者たる同訴外人としては、徐行のうえ自車前側方を注視し、その安全を充分に確認しつつ進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と進行していた過失により、自車前方駐車々両の東側を北から南に向けて横断しようとした原告に加害車を衝突させた。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 受傷

右脛骨々折、頭部打撲等

(二) 治療経過

事故当日に長吉総合病院へ救急入院

昭和五一年五月一三日非観血的骨整復術施行、同月三一日退院、以後同年七月二日まで通院

(三) 後遺症

右足背部に白斑瘢痕(横四・五センチメートル、縦一・五センチメートル)を残す。これは自賠法施行令二条所定の後遺障害等級表第一四級一〇号相当と考えられる。

2  治療関係費

(一) 治療費 一一万二一二五円

(二) 入院雑費 一万円

(三) 入、通院付添費(自宅療養を含む) 一〇万円

3  慰藉料

入、通院中の治療経過、前記後遺症その他諸般の事情を考えると、その額は四八万円が相当である。

4  弁護士費用 一〇万円

四  損害の填補

原告は被告芝田喜一から一〇万円の支払をうけている。

五  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一の1ないし4は認める。同5は争う。訴外東友蔵が加害車を運転進行中、左前方からとび出してきた原告に同車を衝突させたものである。

二の1は認める。

二の2は過失の点を除いて認める。加害車運転者たる訴外東友蔵には本件事故発生につき過失はない。

三は不知

四は認める。

第四被告らの主張

1  訴外東友蔵は、時速二〇キロメートル以内の速度で加害車を運転し、自車の前側方をよく注視しながら東進中、道路左端に停車中の自動車の間から突然に原告が自車直前にとび出してきたのを発見し、すぐさま急制動の措置をとつたが、直前のとび出しであつたため避けられず、原告に自車左前横部が当つたものである。従つて本件事故は原告側の一方的過失によるものというべきである。

2  仮に右主張が容れられず、訴外東にも過失があるとしても、原告およびその親権者にも過失があるものであり、原告の損害額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

3  本件事故による原告の損害に対しては、原告が自認している分以外に、一一万五八八〇円が支払われている。

第五被告らの主張に対する原告の答弁

被告の弁済の主張については、原告自認分の外に六万五八八〇円の支払があつたことは認めるが、その余の五万円については不知。

証拠〔略〕

理由

一1  請求原因一の1ないし4、同二の1、2の事実については、訴外東友蔵に過失があつたとの点を除いては当事者間に争いがない。そこでまず同訴外人の過失の有無について判断するに、成立に争いのない甲第一、第二、第三、第六号証、証人東友蔵の証言、原告法定代理人竹田実尋問の結果を綜合すると、つぎの事実が認められる。

事故発生現場道路は南側に鉄筋五階建の市営住宅、北側は一般住宅や飲食店にはさまれ幅員四メートル、歩車道の区分はなく、路面はアスフアルト舗装され、平たんで、事故当時は乾燥していた。しかもこの道路北側半分には白ペイントで自動車駐車場所として使用するため区画がされている個所があり、路上における駐車もまれではない。ところで訴外東友蔵はこの道路を日ごろよく通つているので、事故現場付近は市営住宅が建ち並び、子供の数も多く、日ごろ道路上でも子供らが遊んでいたりしていることも判つてはいたが、当時その事情も考えて加害車を時速約一八キロメートルくらいで運転し西から東に向つて進行していたところ、自車左前方約二〇メートルくらいのところに道路北側半分一杯を塞ぐ状態で駐車してある軽四輪乗用車(ホンダN三六〇)を認めたが、まさかこの停つている車の前から子供がとび出してくるようなこともあるまいとそれ以上には同車の方に対し格別の注意を払うことなく従来どおり進行していたところ、右駐車々両の前を北から南に向け走り出てきた原告を自車前方四・三メートルの地点で発見し、すぐ急制動の措置をとつたが自車左前ドアが発見地点よりなお〇・七メートル程南に寄つてきていた原告に当り、左前輪が原告の右足に乗りあげてしまつたため、同人がそこに転倒した。

2  而してこれら認定事実によると、訴外東としては事故発生現場付近の状況(交通状態、道路状況等)は、これまでの通行経験上からも充分判つており、前記駐車々両(ホンダN三六〇)に気づいた時から、その前を子供が横切つて道路の向い側(市営住宅側)に行くようなことも予想できないことではないと認められるから、自動車を運転していた同訴外人としては予め走行速度をさらに減じ、しかも駐車々両の側方を通過するような場合には子供のとび出し等の非常の事態に備え最徐行したうえ、進路前方は勿論その左右への注視、安全確認を厳にして進行すべき注意義務があるのに、これを怠りいささか漫然とした状態で駐車々両の側方を時速一八キロメートルくらいで通過しようとした過失により、本件事故が発生したものと認められる。従つて被告会社は民法七一五条一項により、被告芝田喜一は自己が加害車の保有者である以上、加害車の運行に関し注意を怠らなかつたものと認められない(却つて運転者たる訴外東にその運行につき過失があつたことはさきのとおり)から、自動車損害賠償保障法三条によつて、それぞれ本件事故により原告が被つた損害を賠償する義務がある。

二  成立に争いのない甲第七号証、検甲第一、第二号証に、原告法定代理人竹田実尋問の結果を綜合すると、原告は本件事故により、右脛骨、腓骨々折、頭部打撲の傷害を負い、受傷当日から同年五月三一日まで二一日間大阪市平野区内の長吉総合病院に入院、この間五月一三日に非観血的整復術をうけ、ギブス固定し、退院後も通院加療し、六月二〇日頃までギブスがはずせず、以後マツサージ、歩行訓練等をうけ、同年七月二日骨癒合良好とのことで、同病院での治療は打切られたが、受傷部には右足内側に横一〇センチメートルくらいにかけ白斑瘢痕を遺す結果となつたことが認められる。

三  成立に争いのない乙第一、第二、第三号証および弁論の全趣旨によると、原告は本件事故による受傷治療費として、少なくともその主張のとおり一一万二一二五円を要したことが認められる。

原告が二一日間入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中一日七〇〇円の割合による合計一万四七〇〇円の入院雑費を要したものと、経験則上認められる。原告法定代理人竹田実尋問の結果と経験則によれば、原告は受傷当時四歳であり入院中の二一日間は勿論のこと、通院期間中の三二日間についても父親が付添看護に当り(当時母親は出産後間がなかつたので、原告の世話に当れなかつた)、入院中は一日二五〇〇円、通院中は一日一〇〇〇円の割合による合計八万四五〇〇円を下らない損害を被つたものと認められるが、右金額を超える分については、特段の立証もないのでにわかに本件事故と相当因果関係があるものと認め難い。

四  本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、残遺した傷痕、年齢、その他諸般の事情を考え合せると、原告の慰藉料額は四五万円とするのが相当であると認められる。

五  前記一で認定した事実と原告法定代理人尋問の結果によれば、本件事故の発生については、原告が昭和四六年一一月一四日生の事故当時四歳六か月という年齢からして、一人で自由な行動をしたがり行動範囲も広まつてくるのに、いまだ危険に対する判断がつきにくい幼児期の中でも被害を受けることの多い時期であるから、親権者においてもその監護には充分な注意を尽すべきであるのに、この点が必ずしも充分でなかつた過失が認められるところ、前記訴外東友蔵の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の二〇%を減ずるのが相当と認められる。

六  請求原因四の事実は当事者間に争いがなく、さらに成立に争いのない乙第一、第二、第三号証と弁論の全趣旨によれば、原告の本件事故による損害に対して、被告らから一一万五八八〇円を支払つている事実が認められる(もつともうち六万五八八〇円の支払があつたことについては当事者間に争いがない)。

よつて、原告の前記損害額から右填補分二一万五八八〇円を差引くと、残損害額は三一万三一八〇円となる。

七  本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は三万円とするのが相当であると認められる。

八  よつて被告らは各自、原告に対し、金三四万三一八〇円およびこれに対する被告らに訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五二年六月一六日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例